東独にいたの時代背景|冷戦・東ドイツの基礎知識
『東独にいた』の舞台は、ベルリンの壁で東西に分けられていた時代の東ドイツです。 歴史を知らなくても十分に楽しめる作品ですが、「なぜ壁があるのか」「なぜ自由に話せないのか」を知っておくと、登場人物たちの選択の重さがぐっと伝わってきます。 このページでは、読む前に押さえておきたい基礎知識を、ネタバレなしでまとめました。
3分でわかる年表
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1945年 | 第二次世界大戦でドイツが敗れる。ドイツはアメリカ・イギリス・フランス・ソ連の4か国に分割占領され、首都ベルリンも4つの地区に分けられる。 |
| 1949年 | 西側にドイツ連邦共和国(西ドイツ)、ソ連の占領地区にドイツ民主共和国(東ドイツ)が成立。ドイツが二つの国に分かれる。 |
| 1953年 | 6月17日、東ドイツで労働者の抗議が全国に広がる。ソ連軍の戦車によって鎮圧される。 |
| 1961年 | 8月13日、東ドイツが東西ベルリンの境界を封鎖。やがてコンクリートの「ベルリンの壁」が築かれる。 |
| 1989年 | 11月9日、ベルリンの壁が開かれる(ベルリンの壁崩壊)。 |
| 1990年 | 10月3日、東ドイツが西ドイツに加わる形でドイツが再統一。東ドイツという国はなくなる。 |
『東独にいた』は、このうち壁が東西ベルリンを隔てていた時代(1961年〜1989年)の東ドイツを舞台にしています。
冷戦とは
第二次世界大戦のあと、世界はアメリカを中心とする資本主義の国々(西側)と、ソ連を中心とする社会主義の国々(東側)に分かれて対立しました。 両陣営は直接の全面戦争こそしなかったものの、軍備や核兵器の開発、スパイ活動、宇宙開発などで激しく競い合いました。 実際の砲火を交えない戦争という意味で、この対立は「冷戦」と呼ばれます。
ドイツは、この東西対立の最前線でした。敗戦後のドイツは西側3か国とソ連に分割占領され、そのまま二つの国に分かれていきます。 冷戦の境界線そのものが、一つの国、一つの街のなかを通っていたのです。
東ドイツ(ドイツ民主共和国)はどんな国だったか
一つの党が支配する社会主義国家
東ドイツの正式な国名は「ドイツ民主共和国」。1949年、ソ連の占領地区に成立した社会主義の国です。 政治の実権は「ドイツ社会主義統一党(SED)」が握り、選挙はあっても政権が変わることはない、一党支配の体制でした。 企業や土地の多くは国のものとされ、経済も国の計画にしたがって動いていました。
全国14の県(ベツィルク)
東ドイツは1952年に地方の区分を改め、全国を14の県(ドイツ語で「ベツィルク」)と首都の東ベルリンに分けました。 作中で反政府組織フライハイトが「ベルリンの本部と全国14県の支部」を持つとされているのは、この実際の行政区分に重なります。
秘密警察シュタージと監視社会
東ドイツには「国家保安省」、通称「シュタージ」と呼ばれる秘密警察がありました。 正規の職員に加えて、市民の中にも多くの協力者がいて、職場や近所、ときには家族のなかでさえ、誰が何を話したかが報告されていたといわれます。 本心を口にすることが危険な社会。アナベルが大切な人にも秘密を打ち明けられないのは、こうした空気のなかでの話です。
ベルリンの壁
なぜ壁が造られたのか
ベルリンは東ドイツの領土の中にありながら、街の西半分(西ベルリン)は西側の地域でした。 そのため、東ドイツから西ベルリンへ渡り、そこから西ドイツへ移る人があとを絶たず、若い働き手や技術者が大勢流出していきました。 これを止めるため、東ドイツは1961年8月13日に東西ベルリンの境界を封鎖し、やがてコンクリートの壁を築きました。これが「ベルリンの壁」です。
壁のある日常
壁は約28年にわたって街を分断しました。壁の東側には監視塔や見張りの兵士が置かれ、越えようとして命を落とした人もいます。 昨日まで同じ街に住んでいた家族や友人が、壁一枚で会えなくなる――『東独にいた』で描かれる「壁」は、物理的な壁であると同時に、人と人を隔てるあらゆるものの象徴にもなっています。
壁の崩壊とドイツ再統一
1989年、東ヨーロッパ各地で民主化を求める動きが広がるなか、東ドイツでも大規模なデモが起こります。 同年11月9日にベルリンの壁が開かれ、翌1990年10月3日、ドイツは再び一つの国になりました。
作品に出てくる用語
- 東独(とうどく)
- 東ドイツ(ドイツ民主共和国)を短く呼んだ言い方。反対に西ドイツは「西独」。作品名の「東独」もこれ。
- 東ベルリン
- ベルリンのうち、東ドイツ側の地区。東ドイツの首都とされた。アナベルやユキロウが暮らす街。
- フライハイト(Freiheit)
- ドイツ語で「自由」という意味の言葉。作中では、体制に抗う反政府組織の名前になっている。
- ドイツ社会主義統一党(SED)
- 東ドイツを一党で支配した政権与党。作中の政治家アルベルト・コンラートもこの党に属している。
- シュタージ
- 東ドイツの国家保安省の通称。国内の監視や情報収集を担った秘密警察。
- ベルリン大聖堂
- ベルリン中心部、シュプレー川の中州にある大聖堂。壁の時代には東ベルリン側にあった。作中にも登場する。
- MSG
- 作中に登場する、東ドイツの超人部隊(多目的戦闘群)。身体改造を受けた兵士たちによる部隊で、作品の創作。
人物については登場人物まとめで詳しく紹介しています。
作品を読むときのポイント
- 「自由」という言葉の重さ:反政府組織の名前「フライハイト」は「自由」の意味。自由に話せず、自由に国を出られない社会で、この名前を掲げることの意味を考えながら読むと味わいが深まります。
- 体制側にも理由がある:国家の側に立つMSGの人々にも、守りたいものと信じる正しさがあります。どちらか一方だけが正しいとは言い切れないのが、冷戦期の東ドイツという舞台です。
- 秘密を抱えて生きること:監視の目がある社会では、誰もが何かを隠しています。アナベルとユキロウの関係も、その延長線上にあります。
参考:ドイツ民主共和国(Wikipedia)、ベルリンの壁(Wikipedia)、シュタージ(Wikipedia)、ベルリンの壁記念館(Gedenkstätte Berliner Mauer)(最終確認日:)
